仙台地方裁判所 昭和28年(タ)9号 判決
原告 渡部末雄
被告 渡部照信(いずれも仮名)
一、主 文
原告が本件離縁の訴についてした別紙目録<省略>記載の家屋に対する明渡請求の追加的併合はこれを許さない。
原告の被告に対する離縁の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「原告と被告とを離縁する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申立てその請求の原因として、原告は訴外川島文雄の媒酌で妻かつと共に昭和二十二年七月十六日被告を養子に迎え、その届出を済ませた。被告は其の後原告方に原告と同居し、原告経営の公衆浴場「おかめ湯」の掃除及び燃料運搬等に従事して来たものであるところ、昭和二十五年七月頃から何等の理由もなく原告を敵視して原告に対し事毎に同居に堪えないような侮辱暴行をなし常に右浴場営業を妨害し原告所有の金品を何回となく持出し或は騙取した。その主なるものは次のとおりである。
(1)昭和二十五年七月頃、原告所有のミシン布団衣類食器其の他の家財道具の殆んど全部を何等のことわりもなくいずれかへ搬出し(2) 同年八頃原告から浴場掃除について注意を受けたのを憤慨し再三に亘つて「鬼爺、色気狂」などと暴言を浴せたうえ原告を蹴とばして暴行し、(3) その頃右「おかめ湯」の釜番として多年忠実に働いて来た松田茂吉を唆かして原告に反抗怠業させ右「おかめ湯」の営業を危殆に瀕せしめ、(4) その当時「おかめ湯」の燃料運搬に使用していた三輸オートバイ用ガソリンを勝手に他に売却し、また原告から詐術を用い右燃料の買入資金名義に多額の金銭を騙取し、(5) 昭和二十七年二月頃右「おかめ湯」番台金箱から他人の制止をも肯き容れず金銭を掴み出し、(6) 原告と妻かつとの間の仙台地方裁判所昭和二十五年(タ)第八号離婚並びに財産分与請求訴訟事件においてかつに加担して原告を強硬に攻撃し、(7) 昭和二十六年九月原告を被告として不動産所有権移転登記の抹消登記手続請求の訴(仙台地方裁判所昭和二十七年(ワ)第二二七号)を提起した。
右の事実は原、被告間の縁組を継続し難い重大な事由に該当する。と陳述し、被告主張事実に対し原告から訴外渡部久作に「おかめ湯」の建物と敷地につき所有権の移転登記手続がなされたことはこれを認めるがその余は否認する。と述べ、
更に右請求の趣旨及び原因を拡張するものだとして、「被告は原告に対し別紙目録記載の家屋を明け渡さなければならない。」との請求の趣旨と「被告は昭和二十二年七月十六日以降原告の養子として原告所有の右建物に居住してきたものであるが、将来原、被告が離縁した場合は被告は爾後これに居住する何等の権限もないことになるから被告はこれを原告に明け渡すべきである。」旨の請求の原因を追加した。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求はいずれもこれを棄却する。」との判決を求め、答弁として
原告主張事実中原告が川島文雄の媒酌によつて原告の妻かつと共に昭和二十二年七月十六日被告と養子縁組をしその届出を済ませたこと、被告がその後原告方に原告と同居して原告経営の「おかめ湯」で浴場掃除燃料運搬等をして来たこと、被告が昭和二十六年九月原告に対し不動産所有権移転登記抹消登記手続請求の訴を提起したこと、本件建物が原告の所有であつて被告が原告主張どおりこれに居住していることはいずれもこれを認めるがその余は全部否認する。原告は昭和二十五年秋頃仙台家庭裁判所で原告とかつとの間の同裁判所昭和二十五年(家イ)第三八一号離婚等調停事件の証人としてした被告の供述が原告に不利であつたとし爾来、被告を憎み且つ虐待し昭和二十五年十一月二十二日原告が原被告間の養子縁組の際被告に将来贈与すると約束した「おかめ湯」の建物とその敷地を訴外渡部久信と通謀の上同訴外人に仮装贈与しその旨の所有権移転登記手続をした。そこで被告は自己の権利の防衛上余儀なく原告に対し右登記の抹消登記手続請求の訴を提起したわけである。と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告は本件離縁請求訴訟の繋属中その請求の趣旨原因を拡張し被告に対し別紙目録記載の家屋の明渡を追加的に併合請求しているが離縁請求の訴と家屋明渡請求の訴とを併合して提起することは人事訴訟法の明かに禁止するところであるから右追加的併合は同法の精神に反し到底許し難い。
次に、凡そ配偶者のある者が養子縁組をするにはその配偶者とともにしなければならないのであつて夫婦共同の養子縁組においてはそこに夫婦を一方の当事者とする一個の縁組関係が発生し養子はその父母に対し嫡出子たる身分を取得するのであるから養父母倶に生存する限りその離縁もまた協議上これをすると裁判上これをするとを問わず養父母双方共同しまたは養父母双方に対してのみなさるべきものである。したがつてかかる場合養父一人のみによる養子離縁の訴は当事者たる適格を欠くものであるといわざるを得ない。養親が倶に生存する場合においてもその一方のみで養子離縁の訴の提起ができるとの説はその判決の効力が他の一方に及ぶと及ばざるとに拘らず夫婦共同動作の原則に反するから遽に左袒し難い。もつともかように解するときは養子と夫婦の一方との間に離縁原因があるが他方にこれがない場合、夫婦の一方が竟に離縁請求権を奪われる結果を招来するという非難が起り得る。しかし、今夫婦の一方から養子に対し離縁の訴を提起することができるとするときは同一家庭に氷炭相容れない分子が同居し、延いて、夫婦の和合を害すること甚しく、竟に当事者は離婚か又は夫婦の他の一方との離縁かの何れか一方を選ばなければならない破目に立ち至り、夫婦及び養親子の団楽を阻害し、一家の不幸思半に過ぎるものがありその禍害叙上離縁請求権の剥奪のそれと同日の談でないこと極めて明白であるから前掲非難は当たらない。しかるところ本件離縁の訴は原告とその妻かつの共同でした被告との養子縁組についてかつが生存するにもかかわらず原告単独でこれを提起したのであること原告の主張自体により明かであるから夫婦が共同して当事者でなければならない旨の要件に欠けるところがあること多言を要しない。
よつて原告が本件離縁の訴についてした家屋明渡請求の追加的併合はこれを許さないこととし、また本件離縁の請求は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 中川毅 野村喜芳 野原文吉)